斜里岳 原生林の見方、感じ方

 北海道は大自然!というイメージがあるとおもいますが、そのイメージどおり昔から人の手が加えられていない原始のままの自然が比較的身近にある、というのが特徴であり一番の魅力です。

 その原始の自然の残る場所は、高山地帯や湿原、自然の湖などもそうなのですが、特に貴重なのは原生林と言われる森です。「原生林」とはその名前のとおり、人が利用したり木を切ったりしたことのない自然のままの森のことなのですが日本には今はあまり残っていないので行かれたことがある方は少ないと思います。本州では秋田と青森にまたがる世界遺産、白神山地のブナの原生林が有名です。そしてこちらで原生林が身近に見られるのは国立公園でもあり世界遺産でもある有名な知床半島なのですが、今回はその知床半島の付け根にある斜里岳の原生林を紹介したいと思います。(斜里岳は日本百名山でもある山で、とてもバランスのとれた美しい山です。また斜里岳はウチの裏山だと勝手に思っています)

 ここの原生林に生えている樹木の種類ですが、幹の周りが3メートルもある北海道の代表的な木であるエゾマツ、トドマツという針葉樹やどんぐりのなるミズナラ、シラカバに似たダケカンバ、七回かまどに入れても焼け残るほど硬いということから名付けられたナナカマドなどの広葉樹が生えています。マツは松ぼっくりがなりますし、ミズナラはどんぐり、ナナカマドも真っ赤な実を付けるので、鳥やリス、ヒグマなどの動物にとってもご馳走の森なので皆さんも動物に生まれ変わったらお住まいは原生林をお勧めします・・

 そして原生林の一番の特徴は大木が風や寿命で倒れ、また立ち枯れし、それが何十年もかけて腐り、土に返っていき、そして次の世代の幼木がその上に生え育っていく、という命の循環がみられることです。倒れた樹木の上にまた新しい樹木が育っていくことを倒木更新というのですが、笹が密に生えているところでは、種が地面に落ちても日も当たらず成長が難しいため、倒木の上に落ちた種が芽を出し根を伸ばしたり、その倒木を栄養にしたりして成長していきます。そして木が大きくなるころには倒木はすっかり土に帰り、次の世代の木の栄養となっていくのです。いろいろな条件により差があるのですが倒木が土の上に倒れて、腐り、また土に帰っていくのが大体30年ぐらいと言われていて、ここでは倒れたばかりの木から下半分が腐っている木、ちょっと地面が盛り上がっているかな?というぐらいすでにほとんど土になっていて見分けがつかなくなっている「元」木まで見られます。まさに命の循環です。

 そして原生林を「感じる」ということを是非体験してほしいのですが、どんな木がある、とかの知識とは離れて、森全体を見渡して、あるいは目を閉じたり鼻を効かせたり耳をそばだてたりして、なんかひんやりとして鬱蒼とした深い森だな、とか、こんなデカイ大木、おじいさんのおじいさんのころに生まれたのかな?とか、なにかの声か音がするな、とか、ヒグマの息遣いが聞こえてきそうで怖いな、なんか獣臭がするな、等など、五感を研ぎ澄ませて本当の自然に対する畏怖や人一人の営みの時間を超えた生命感を感じ取ってほしいと思います。

 このように原生林は感性と感受性を磨くのにとてもよい場所です。

 そしてこのコースを上部まで行くと見晴らしのいい場所に出ます。ここまで太古から変わらぬの自然の森の中を歩いてきて外界を見下ろすと眼下には人間の築いてきた営みと文化があり、「ああ、人間はこういう状態の森を切り開き、開拓して、こういう文化文明を築いてきたのだな」という長い時間をギュッと縮めたような感覚を味わうことができます。

 このように北海道では何百年、何千年と変わらぬ森とそのすぐ近くに文明が見られる場所があるので原始の自然を見においでください。

2016年 8月