流氷

 流氷、見たことあるでしょうか? 流氷は地図でいうと北海道の上のほうオホーツク海の北から大きくなりながらやってきます。ここ数年は温暖化の影響かやってくるときが遅くなったり氷の大きさも小さく厚さも薄くなる傾向がありますが例年ここ知床沿岸にやってくるのは1月下旬ごろです。流氷がやってくると地元の人は「氷、来たねぇ~」とか「海、凍ったべや」といいますが、まさにその表現のとおりで海が凍る、氷に覆われるのです。海に流氷が見え始めることを流氷初日といいニュースになるのですが私もウチの窓から毎朝愛しい人が来るのを待つように「もう来たかなぁ~?」と海を見ているとある日藍色の海の沖合いの水平線が真っ白に輝きます。そして北風が続いた次の朝見ると海が真っ白になっているのです。ウチから海までは直線でおよそ10㌔あるのですが流氷が来る前は北風によって海が荒れて波の音が「ごぉー」とここまで聞こえてきます。そして流氷が近づくと急に音が小さくなりついに接岸して氷で海が覆われると波がなくなり「シーン」と音もなくなるのです。そして流氷という氷で蓋をされてしまった海は海水の暖かさを大気中に出すことができなくなるので気温がカクンと下がり海と陸、両方が雪と氷で覆われるため温度差もなくなり風も無くなります。

 流氷はサッカーボールぐらいの細かいのがパラパラゆらゆらとまばらにやってきたり畳より大きいぐらいのものが縦になったり斜めになったりして一気に押し寄せてきたりと表情は様々。こちらの現地で出来る流氷もあってそれを見ていると最初にでき始めの流氷はドロドロしたシャーベット状の氷の粒でそれが蓮の葉っぱのようにくっつき大きくなって固まってきます。大きさも大きい物はバス一台分ぐらいのものもあります。そして強い北風が吹くと知床半島の岸などには後ろから次々に押された流氷が折り重なって乗り上げて5メートル以上もある流氷山脈と呼ばれる氷の山を作ったりします。また北の方からやってくるオオワシやオジロワシといった翼の幅が2メートル以上ある大きなワシが流氷の上に留まり氷の間に挟まっていたり浮いていたりする魚などを探していたりアザラシも流氷の上で寝転んでいたりして「まさに冬のオホーツク海!」という風景です。

 流氷の一番密度の高いときには遥か水平線まで埋め尽くされていてどこまでが陸なのかどこからが海なのかわかりづらいほどなので宿のお客さんと流氷を見に行った時そのお客さんが海を見て「北海道って畑が広いのですねぇ~」と言ったこともあります。それぐらい広大な自然現象なのです。風が強いときは流氷鳴きという現象もあります。これは氷どうしが波で揺られてこすれ合う音で「きゅぅ~きゅぅ~」という悲しげな音に聞こえます。

 また春が近くなってきて暖かく風の無い日が訪れると流氷蜃気楼という現象が見えるときもあります。これは遠くの流氷の上に流氷の壁が立ち上がるように見えるもので最初に見たときはなんかずいぶん高さの高い流氷だなぁ・?と思って見ていましたがよくよく双眼鏡で見てみたら蜃気楼だということがわかりました。

 そんな流氷も3月に入り春一番の強い南風が吹くとバラバラに離れゆっくり歩くぐらいの速さで一晩に数十キロ先の沖合まで遠ざかっていき2,3日するとそのまま見えなくなる年が多いです。そのときは「ありがとう~さようなら~また来年来てね~」とお客さんを見送る気分なのですが、また北風が吹いて数日したら戻ってくることもあり「あら、また来たのね」と名残を惜しんでいるようです。

 流氷は英語でドリフトアイス(漂流する氷)といい良い表現なのですが、そのように流氷は生き物というか流れ者でありまさに水物で来てみたら全く無いということもあります。でも2月は一番見られる時期ですので「一度は見てほしい日本の絶景」である凍った海を是非見に来てください。

2017年 1月30日