皆は「北海道はいいけど冬がなあ・・」とか「寒くてとても耐えられないんじゃない?」とよく言われた。ところがすごしてみると拍子抜けするほど暖かい。たしかに外は昼間でも氷点下だけど、どこに行っても屋内が暑いほどの強力な暖房なのだ。北海道人は冬の家の中ではTシャツでビール飲んでアイスを食っているという話は本当だった。そんな生活は暖房に使うエネルギーの無駄だ、と内地の(本州)人は言うしボクもそう思ったが、これは長く厳しい冬を肉体的にも精神的にも健全にすごすための必要な暖房だということがわかった。こちらの場合外の仕事が多いし気温は低い。冷えた体で帰ってくると火照るぐらいの部屋に入って暖まりたいのだ。それにまた外に出るとき、体が冷えていると出るのがホントいやになる。斜里の古い借家のときは家の断熱性能が著しく低く隙間だらけだったためストーブをがんがん焚いた。夜中もストーブは微小にしてつけっぱなしだ。天井付近は40℃、床の上は5℃ぐらい、隙間風はマイナス20℃だったけど寒くてまいった、といことはなかった。20年ぐらい前までは皆家に煙突があってそこに強力な石油ストーブを接続していたが最近の家は煙突のないFFストーブや灯油、電気などのボイラーで床暖房やパネルヒーターで部屋を暖めている。そのため家中が暖かく快適、家に帰るのが楽しみだ(夫婦仲がよければ・・)。灯油代はたしかに月に2万円ぐらいかかるけど夏のエアコン代がかからないのと給湯も灯油なので光熱費のトータルは内地とあまり変わらないかもしれない。ウチの宿は断熱性能を特に上げたうえ、太陽光が多く入るようにしたので真冬でも晴れれば昼間は暖房がいらない。それにここオホーツクでは冷え込むのは天気がいい日。寒いのは朝晩で、日中は太陽さんの下にいるとポカポカだ。氷点下10℃でも大工仕事なんかは普通にやっています。
ところで2年前久しぶりに正月にさいたまの実家に帰ったら、どこの家も屋内が寒くてまいった。ボクはいつもストーブの前が指定席だったし、関東に来ると厚着になり風邪をひく。どっちがいいかは・・やっぱり北海道のパリッとした外の寒さと快適で暖かな家がいい。
宿の居間につける暖房はコスト最優先でFF石油ストーブのつもりだった。薪ストーブは最初からの考えにはなかったが家の形が出来上がってきて、さて・・となったときに「やっぱり憧れの薪ストーブが欲しい!」と思ったのである。それと「なまら蝦夷」という個人旅行者向けの北海道旅情報誌に「薪ストーブは手間がかかるけど素敵な贅沢品だ・・というようなことが書いてあったこと、田淵義夫さんの「薪ストーブ」という本を見つけたことが重なり決定。ほんとは熱効率を考えると薪ストーブというものは一階の中央に置くのがいいのだが、レイアウト上もう無理なので2階の居間に置くことにし、床や壁を補強した。機種は機能と美を追求するならやはり北欧かアメリカ製が良いようだ。さっそく輸入代理店に見積もりをとると・・・全部で80万円もするではないか・・・ちなみに工事費や取り付け費は別でだ。アメリカ・バーモントキャスティング社のアンコールという機種なのだが、本体だけで52万円。薪ストーブは金持ちの贅沢品だったんだ・・日本製のホームセンターで売っているやつが2~3万円ぐらいなのにちょっとあんまりじゃないの?本国での価格を調べてみると本体は15~6万円ぐらいのものだということがわかった。まあ本体だけでも重さが150キロもあるから送料が高いのはわかるがそれにしても・・・Netで調べて個人輸入することにした。が、英語が苦手なボクには荷が重いのでたまたま向こうにいる妹に頼んで代わりに買って送ってもらうことにした。結局税関やなんだかんだで40万円ぐらいかかってしまったが、それでも日本価格の半値で済んだのと、やり取りが勉強になったのでいい経験だった。ところが送料を節約したためこの150キロのストーブは煙突などと一緒にパレットで来て、どんと玄関先に置いていかれたのだ。どうやって2階に上げよう・・
まずキャスター(タイヤ)をホームセンターで買ってきて台車を作った。売っている台車でもよかったが高かったので節約した。まず外せるものはすべてはずして少しでも軽量化する。2~3人がかりでその台車に載せ段差につまずきながら階段下まで転がしていく。脚立を2台階段上の左右に置き、太い木材を渡す。1980円で買ってきたウインチ(レバーをカチャカチャ上下して少しずつ引っ張るやつ)をその木材に吊るし、ストーブに登山用のロープをかけ、少しずつ上げたのだ。うまくいったが150キロの鉄があちこちミシミシと音をたてながら上がっていくのは気分のいいものじゃなかった。次にもし設置するならやはり一階の中央に置きたいと思う。煙突を通すところはカタログの挿絵を見て自分で作った。煙突は2重構造の断熱材入りなので触っても大丈夫なぐらい熱くならないのだが、念のため家のほうの周りの構造は燃えないロックウールという断熱材をスレート板(セメント板)で囲った。骨組は木材だけど・・。
寒くなって初めて火を入れてみた。このストーブは予想以上にすばらしかった。最初本体が暖まるまでは時間がかかるが火力の微調節がきき、回りはとてもやさしい暖かさがひろがり能力も20畳以上ある居間でも十分すぎるぐらいだ。実用面では電気がなくても暖をとれることが一番だろうか。田舎は停電も結構あるし、何といっても化石燃料を使わないためエコだ。炎を見る楽しさも格別。火の近くにいると安心感を覚えるのは太古からの遺伝情報だろうか。そういえばアラスカで会ったユーコン川のカヌーイストが夜は熊よけのため、焚き火を絶やさずに寝ると言っていたっけ。また、うちの薪は今のところもらいものや建材の余りだが、こちらでは産廃場にお金を払って伐採した樹を持って行く人がいるぐらいだから探せばタダでありそうだ。またダッチオーブンという鉄鍋をストーブにおいて芋なぞを焼いているがこれがまた格別にうまい!!薪割りはたしかに大変だけど、炎にあたって暮らすという、ほんとに贅沢な時間を過ごしています。