子供達が寝つき社会的動きが止まる夜、屋内で耳につく音がある。冷蔵庫のモーター音、給湯や暖房のボイラー音、浄化槽のエアーポンプの音、そしてパソコンの音。どれもここの生活に合わない嫌な音なので無くしたいが完璧を求めすぎだろうか。
最初にこの場所に来て風の無い夜に外に出たときすぐに感じたことがある。音が無いのだ。耳鳴りしか聞こえない静かな世界はとても新鮮だった。
また逆の楽しみ方がある。それは耳を澄ますこと。強い風の吹く前は「ゴォー」というちょっと怖いぐらいの迫力で山鳴りともいえる音がやってくる。静かな日は回りに人がいないから恥かしげもなく「ヤッホー!」とやると1~2秒に「ヤッホー!」が返ってくる。作物が花を咲かせる時季、「ブーン」という無数のハチの羽音、犬を放したときの駆けていく足音、それに比べキタキツネは忍び足、近くに来ても音はわからない。音を楽しむおすすめの場所はいくつもあるけど例えば森の中、鹿の鳴き声、鳥のさえずりはもちろん、運がよければキツツキの「コンコンコンッ」も聞こえてくる。近くの山奥では聞きたくなかった熊の足音も聞いてしまった。
静かなところに暮らして山や森を歩いてみると人間はなんて騒々しい音を出す動物なんだろうと思う。車や機械たちは爆音だし、しゃべっていると騒音、歩いているだけでも動物達は「人間っていう動物はなんてうるさいやつらなんだ!」と思っているよ、たぶん。ボクはアイルランド人の「エンヤ」の曲がとても好きで家の中の雑音をまぎらわす香水のようにかけているのだがそれとて人工音のしない屋外における自然の奏でる音にはかなわない。
肩の力を抜き、リラックスして聴覚に集中して音を聞く。感じる。癒される。
北海道の田舎はとても楽しい。
今年は大雪だ、突風だ、地震だ、といつも天変地異と戦っているような感じがする。今回はGW、お客さんが何人もいる日にとんでもない突風が吹き荒れた。冬の突風は慣れたけど今回は5月、前触れも無い局地的な暴風。どうやら斜里、清里だけがひどかったようだ。ウチは見晴らしのよさが仇となる風の通り道、これを少しでも和らげるには防風林しかないと思い植林したがこれは効果の現れるまで気の長い話だ。風は夕方から朝4時ぐらいまで吹き荒れた。まず、木製の重いベンチが飛び、僕の車を直撃(傷だけですんだ)お客さんのBMWの重いバイクも何度も倒れ他のお客さんの車に当たり傷を付け、井戸の鉄のふた、タイヤ、自転車、レンガ、石、材木、一人で持てないほど重い犬小屋、外において置いた調理器具、煙突のトップカバーなど通常考えられないものが風下へぶっ飛んだ。建物は手抜きしないでしっかり作ったとはいえギシギシと音を立てて揺れ、窓ガラスも大きくたわみ、正直持ちこたえられるか不安だった。前代未聞のこの風はたぶん風速50メートル位はあったと思う。朝風が収まり外に出ると宿の看板が木の支柱の根本からバッキリ折れてぶっ飛び、近くの農家のD型ハウスは基礎から持ち上げられつぶされ、ある住宅の塀は倒壊、レストランの看板も傾いていてまるで爆心地のようだった。地元の人も前代未聞の風と言っていた。しかし感心したのは我が家の強度、あの風はもう限界に近いと思うが、しっかりもちこたえてくれた。それにしてもこのところ変な気象だ。温暖化の影響だろうがこれが都会だったら大災害だろう。でもここでこんなことが起こってもニュースにすらならないのだから北海道は広い。最近ますます思うのだが結局自分の身は自分で守るしかない、田舎暮らしは人的災害より自然災害に対する危機管理意識がより必要だと痛感したのであった。そういえば天気予報もよく見るようになった気がするなぁ・・
おっちゃんこ(座る)、なまら(とっても)、あずましい(ここちよい)、ゆるくない(楽じゃない)、なげる(捨てる)など北海道弁はいろいろある。ここに住んでいる人はアイヌ民族以外、皆、本州、四国、九州など内地(北海道の人はこう呼ぶ)からの開拓民だ。その中でも東北から来た人が多いようで、方言というか、言い回しで「いいべさ」「いいんでないかい」「いいっしょ!」「~かい(語尾が上がる)」という言葉も多い。その言葉をちょっと威勢良く「江戸っ子でぇい」的に「エゾっ子でぇい」という感じで使っているわけでウチの子供らもすっかり北海道弁丸出しになっている。
しかしちょっと変わったのもある。夜に会ったとき「おばんでした」、電話に出るときも「山下でした」と現在進行形なのに過去形で言うのである。これには言語学者さんたちも眉をひそめているらしいが、まあ、知人どうしなら問題ないと思う。で、問題はコンビニやファーストフードなどでよく、庶民的な感じ(?)のおばちゃんやおねーちゃん店員が使う「よかったですか?」だ。買い物や注文をするとき「~以上でよかったですか?」「おにぎり温めてよかったですか?」「230円のおつりでした」とくる。変だ。おかしい。これが方言とは言いたくないが聴いたことが無い旅行者などは「えっ?なにがよかったの?」と聞く人もいてちょっと気の毒。これはやはり過去形の言い方であるから日本語として正しくない。こんなふうになってしまったのは移住記8でも書いた、タメ口文化で育った世代の産物なのかもしれない。接客業をやってきたボクにとって、もし部下がそんな言葉を使ったら「よかったですか?・・じゃなくて、よろしいですか?だろっ!」と注意すると思う。この言い方、徐々に本州の若年層に浸透しているらしい。よく考えると敬語のようで敬語でない、間違った日本語のこの「よかったですか?」を皆で治していく方法はないだろうか?こんど「よかったですか?」って言われたら「よかったって、過去にこんなことありましたっけ?」ときりかえしてみようかな。参考までにこれをよく聞くコンビニはセイコーマートです。やっぱり従業員教育のせい?