悲しい話だがこんなことも本当にあるのだという事実を知ってもらうために書こうと思う。
ボクの宿の詳細設計をしてくれた建築士。
以前から経営状態は良くない、という噂話は聞いていた。そのとき彼に雇われて大工のバイトをしていたボクは普段どおり彼と打ち合わせをした次の日に用事で何度も電話をしたが通じなくなり、夜になって事務所件住宅に行ってみると明かりが消えていた。
売れっ子建築士だった彼の負債は8000万円以上、債権者は25人以上に上った。原因は住宅見積もりの甘さと経理などの金銭管理のずさんさだというがそれだけでこのような金額になるだろうか。これより先は今の段階では不明である。
彼にはこちらへの移住者で新築するお客さんを3軒ほど紹介してきた。いけないことに、その3軒うち2軒がほぼ完成間近とはいえ未完成な上、工事代金の支払いはさせられてしまっていたことである。それも1軒は逃走前日に代金を振り込ませて、である。
工事は当然止まった。工事請負業者は激怒し、この完成間近の家についてもトラブルになりそうになった。
ボクや、業者、大工さんなどの給与、支払いも未払いとなった。
なにより今でも、いつまで経ってもボクの紹介で家を建てた知人たちには申し訳ない気持ちでいっぱいだ。
後の裁判所における破産の審議のときに本人が出てきて「怖くて逃げた」と言っていたがそれはわかる。しかしだ・・・何年も一緒にやってきて信用していた、あまりにも身近な人間にあざむかれたときのショックは甚大だった。債権者全員が「破産」という事実よりも「逃げた」という行為のほうがショックだったのではあるまいか。人気のあった彼の建築デザインのこと、業者としても彼が頭さえ下げて回れば手を差し伸べてくれる業者もあったのに。
これから彼に建築を依頼した人たちは皆、何の保証も無くなった我が家の維持、作り込みをすべて自分達で考え、負担し、「夜逃げ建築士の作った家」という事実を背負って住んでいかねばならない。
逃げないでもらいたかった。皆に殴られる気で土下座して回ってもらいたかった。
お客さんのなかにはたぶん本気で殴る人はいなかったよ。心をこめて素敵な家を作ってきたのは事実なのだから。
移住してきて「いいな」と感じることのほうが「困ったな」というよりはるかに多い。心が穏やかになり、時間もゆっくり流れる感じだから「まっ、いいかぁ」という妥協、いい加減で良い加減な性格に自分がなってきていると思う。
こちらで特に「いい」と感じる大きなことに子育てがある。都会では今は少子化で、こちらでは3~4人兄弟が当たり前、一人っ子はクラスに数人、という状況だから、出生率が1.3人なんて話を聞くと、どこの国のことかと思ってしまう。これは今の日本の社会的背景が主原因だと思うが、それにしても多くの会社は女性は子供を産んだら仕事は辞めねばならないような道筋が出来ているし、そのうえ生まれたら今度は保育園や幼稚園がいっぱいで預けられない。おまけに料金が高い!こんなことばっかり聞いていたらますます子供を作る気が失せるのはあたりまえだ。出生率の低下はこんな精神的プレッシャー、ストレスから来ているのではあるまいか?
移住当初は知らない人ばかりで大人にとっては少し気が抜けないところがある田舎だが、これは次第に逆に緊張感のない生活に変わってくる。そして子供にとっては回りの大人が皆、親のような、あたたかな人的環境のなかで成長する。もちろん自然環境は最高で遊び場無限、同級生は幼少のころよりずっと一緒だから、いじめもほとんど無い。子供たちにとってそんな良いことばかりが田舎にはある。
ボクは保育園や幼稚園などはすぐに入れるものと思っていたので、最近まで「待機児童」なんて言葉は知らなかった。
この子供達がすいている町営スキー場で兄弟や友達たちと騒ぎながら滑っている姿は平和と幸せを象徴するとてもいい光景だ。そしてこの子たちが大人になって都会に出て行き、結婚して子供をもうけ、子育ての環境を考えたときに、あるいはその子育ても終わって悠々自適をしよう、と思ったときに、この町を想い出すような場所で、いつまでもありたいと思う。
子は宝、という言葉が昔はよく聞けたけどそれを実感できる環境がここにはある。
子育てなら北海道の田舎はイチオシ!でもちょっとさみしいのは意外に自主的に外で遊ばないことかな・・これは面白いゲームや親のせいだと思うけど・・反省。